☆第3話☆

 由紀哉の二歳離れた弟は、重い喘息で、生後すぐから入退院を繰り返していたらしい。 付き添いが必要な病院だったので、母親は不在がちになった。由紀哉は二歳から保育園に入れられ、祖母が送迎するようになった。

「大変だったのね」
「いや、俺もそりゃ少しは淋しかったけどさ、一番つらいのは、弟だからさ」
「ねえ、なんで、そんな話、私にしているの?」
「……なんでだろう?」
 由紀哉も少し首を傾げた。

「ほら救急車の話したじゃん、それで思い出したんだよ。救急車、弟が何度も乗ったし」
 由紀哉の瞳の中に、押し殺したような怒りがあるような気がした。
「救急車におかんが一緒に乗り込む時、すごく不安で、僕も行くと泣いたし、保育園に連れていかれたくなくて、柱にしがみついたりしていたよ」

 でも母親は、弟の看病で必死だったのだろう。あまり由紀哉を構ってはくれず、突き飛ばすようにして行ってしまった。
 あんまりグズっていると「お兄ちゃんのくせに、いい加減にしなさい!」とビンタが飛んできたこともあったそうだ。

 二歳といえば、一番母親に甘えたい時だ。彼は、弟に母親を取られたとか、母親に拒絶された、とか思っているのではないだろうか。
 週末になるたびに見知らぬ男に抱かれている彼の現実を、考えた。誰かに抱っこされることで、心の隙間を埋めているかのような。抱っこされ足りていない子どもの頃の自分を慰めているかのような……。

 由紀哉は週末はウリセンバーで客を待ち、平日は駐車場で車が入ってくるのを待っている。

 南の島のあちこちには、海の向こうから神様がやってくるという伝説がある。由紀哉も何かもっと違うものを本当は待っている気がした。
 じっと待っていれば、何か、ものすごくいいことがやってくるかのような。心の傷を癒してくれるエピソードを彼は待っているんじゃないだろうか。

 由紀哉はもういいじゃんそんなこと、とでも言いたげに、ベッドの中に潜り込み、私に抱きついてきた。
 彼の指が、私の下腹部に、伸びてくる。
「なに……?」
「触りたいんだよ」

 指先が、そろそろと奥の方へと潜っていく。
 果てなかったお詫びのつもりなのだろうか、由紀哉の手は、蜜壺に達した。今しがたペニスを抜かれたばかりの濡れた泉の縁をぴちぴちと弾いている。

「ん……」
 自然と、彼の指が入りやすいように、腰を浮かせていた。
「咲希ちゃんのアソコ、俺の好きなアソコなんだよ」
 つりゅ、と指が、中まで滑り入ってきた。


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