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☆第2話☆
「由紀哉クンてさあ、ひょっとして、ゲイ?」
「え」
彼は驚いたような顔をして、私を見た。一滴もザーメンなんか出てはいないコンドームを指先からぶらんと下げている。
「だって、男の人の前では、イくんでしょ?」
彼は一瞬言葉に詰まったけれど、
「俺、口でイッたことないし。男にいくらしゃぶられてもイかないよ」
「じゃあ、どうしてんの」
「……自分でオナニーすればイけるから、お客さんにはそれで納得してもらってるけど」
サラサラの茶色い髪をしている彼は、少し反抗的な目線を私に向けた。
普通に街を歩いていれば、それなりに人目を惹く、可愛いルックスの由紀哉。
由紀哉は、ウリセンボーイだった。新宿二丁目には、一晩三万円でゲイの男性に身売りをする男の子達がいる。ペニスを舐められたり舐めてあげたり。OKな子はペニスをアナルに入れたり入れられたり。
見知らぬ男達と、一夜を共にして、二万円の取り分を、得るのだ。
ウリセンを続けてもう二年目だという。
彼が身体を売る理由は、借金。車のローンがまかないきれないから。
思い切って買った、三百万円近い4WD車。けれども半年と乗らないうちに、盗まれてしまったという。もうそこにはない車のためにお金を支払い続ける惨めさが、彼をこの仕事に追い込んだらしい。
週に二回。判で押したように金曜日と土曜日だけ、彼は店に出る。
他の日は、彼は、恵比寿にある大きな病院の駐車場係をしていた。車が大好きだからこの仕事をしているのだという。
「昼番と夜番があるんだ。昼番は、病院の患者やお見舞い客がちまちま出入りするから、何かとめんどくさいんだけど、夜番は静かで、いいよ」
と言う。病院入り口付近の小さな詰め所の中、冬はミニストーブ、夏はミニ扇風機に当たりながら、出入りする車を眺めているのが楽しいという。
病院の駐車場は広く、夜間は一般にも貸し出しているのだけれど、あまり知られていないらしく、割合暇なのだという。
「あとは、急患の家族の車が来るかな」
救急車は、病院の救急窓口に付けるので駐車場には入ってこないと言う。
「救急車には、思い出がありすぎだよ」
彼はそう呟いた。
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