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ウリセンボーイ編

 1

 私は、イライラして
いた。
 よく晴れている日だ
というのに。
 今日はレインボーブ
リッジの一般道からも、
お台場の未来的光景が
くっきりと見える。
「すごい。きれいです
ね」
 平間は喜んで外を眺
めている。お台場に来
たことないのと聞いた
ら、いつもは地下鉄か
ら行くから、レインボ
ーブリッジを渡るなん
て初めてなんですよと
答えた。彼の大きな目
もきらきらと日の光に
当たって輝いている。
 けれども私は憂鬱だ
った。
 どこかのシティホテ
ルでごろごろと過ごそ
うと思っていたのに。

 私は自宅のあるお台
場に戻ろうとしている。
 原稿のせいだ。
 昨夜完成した長編小
説なのだけれども、主
人公の職業設定を変更
することになって、い
くつかのシーンを書き
直さなくてはならない
ことになった。
 締め切りを過ぎた、
ぎりぎりの入稿だった。
早くゲラを出さないと
間に合わないから、大
急ぎで直してくれ、と
編集に命じられると、
さすがに断るわけにも
いかない。
「ねえ、平間クン」
 私はハンドルを握っ
たまま声をかけた。
「二時間くらいで終わ
ると思うから、部屋で
てきとうにごろごろし
ていてくれる?」
「あ、もちろん、いい
ですけど」
 彼は、少し遠慮がち
だった。
「でも大丈夫ですか?
 僕、店に戻っても、
いいですよ?」
「平気よ」
 平間は、ウリセンボ
ーイだった。ウリセン
というのは、ゲイの男
達専用の連れだしボー
イだ。スナックみたい
な店で、訪れた客は、
気に入った男を外に連
れ出す。連れ出された
ボーイは、ホテルに連
れ込まれてフェラチオ
などの奉仕をすること
がほとんどだという。
 私は長編が終わった
ら、自分へのご褒美と
して、ホストクラブに
繰り出す。けれどもホ
ストクラブというのは
夜中にオープンする。
今日はそんな遅くまで
待ちきれなかったのだ。
 ウリセンは、昼過ぎ
くらいからオープンし
ているところもある。
本当は女は入ってはい
けないのだけれど、マ
スターと取材で知り合
いになって以来、店に
客がいない時には、入
れてくれるようになっ
た。
 そして私は先程、ウ
リセンバーから平間を
連れ出した。次の日の
朝まで買うと行ったら、
六万四千円を要求され
た。そんなもんだろう
なと思ってぽぉん、と
思いきりよく払って彼
を車に乗せた。
 平間は二十三歳。顔
立ちがきれいで、泣き
そうな、それでいて頑
固そうな瞳をしている。
おとなしそうな感じの
子だった。しっとり飲
みたい日だったので、
彼を選んだ。
 平間を買うのは、二
度目だった。
 以前一度、ホストク
ラブに行く前に時間が
空いてしまって、食事
に付き合ってもらった
ことがあった。ゆった
りとした話し口調が気
に入っていたので、こ
の時間に彼がいてくれ
たことは、嬉しかった。
ウリセンバーは自由出
勤制なので、誰がいつ
出ているかなんて、わ
からないからだ。
「久しぶりだね」
 車のドアを開けて彼
を乗せると、
「……はい」
 とはにかんだ笑顔を
見せた。
 ウリセンの子は無口
な子が多い。「ホスト
みたいに上手なトーク
は自分には無理だから」
ウリセンで働くことに
した、と皆同じような
ことを言う。ウリセン
の子はほとんどが借金
持ちで、平間もそのひ
とりだった。競馬で大
金を賭けて大金持ちに
なるつもりだったのに、
その馬が途中でコケて
落馬、大番狂わせにな
ってしまったのだとい
う。
「キャッシングと学生
ローンとで、まだあと
百万あるんですよ……。
馬券、当たってればな
あ。五百万円くらいに
なっていて、俺、小さ
なカフェでも、始めよ
うと思ってたんですけ
ど」
「そうなの」
 大変ね、と相槌を打
ちながらも、実は私は
あまり彼の話に注意を
向けている余裕がなか
った。家に帰ったらあ
の場面をこういじって
みよう、などと仕事の
ことでぱんぱんになっ
てしまっていたのであ
る。
 平間は部屋ではおと
なしくしていた。
 パソコンに向かって
いる私に、全然何も話
しかけてはこなかった。
近くのコンビニで買っ
てきたおにぎりを食べ
てみたり。雑誌をめく
ってみたり。
 十五畳のリビングは、
離れていても、お互い
の動きを敏感に察知で
きる。昔、恋人を家に
呼んだ時にいきなり仕
事が入ったことがある。
その時恋人はテレビを
イヤホンでずっと観て
いたが、途中何度も声
を立てて笑ったりして、
神経に障っただけに、
羊のようにおとなしく
ソファに寝そべってい
る。気配を消している
のか、原稿に集中して
いる時は、彼がいるこ
とすら忘れてしまうほ
どだった。
 この部屋に、商売男
を入れたことなど、一
度もなかった。女のひ
とり暮らしだし、住所
は知られたくなかった。
けれども平間はのんび
りした感じの子だし、
まあいいかと警戒を緩
めた。こういう子が空
き巣やストーカーにな
るようには思えなかっ
たし。
 早く終えて、ああや
れやれ、とワインをぐ
ぅっ、と呷りたかった。
けれどもあと一時間は
かかりそうだった。椅
子の背もたれに体重を
かけてウーンと伸びを
した時、彼の黒い髪が
規則的に波打っている
のが目に入った。いつ
の間にか寝てしまって
いる。
 瞬間、カッ、となっ
た。
 私はここ数日、ろく
に寝ていない。だのに、
目の前で気持ち良さそ
うにすぅすぅ寝られて
いるのは、許せない。
 彼のところに歩み寄
り、Tシャツをめくり
上げた。まだ寝ている。
小さな桃色の乳首を軽
く舐め上げたら、ぴく
ッ、と肩が震えた。つ
るつるとした、中性的
な綺麗な肌だった。 
イタズラしてやろう。
 そう思って乳首の脇
を強く強く吸った。少
し冷たい肌を唇で引っ
張る。
「何……してるんです
か」 
 彼の声がした。起き
たのだ。
「なにって、ほら、見
て」
 乳首のすぐ脇にうっ
すらと。もう一つ乳首
があるかのように紅い
跡が滲んだ。
「困っちゃうでしょ、
こんなことされて」
 意地悪したのだ。
 彼は、ゲイの男達に
抱かれて日銭を稼いで
いる。それなのにキス
マーク。僕には特定の
人がいます、とでも主
張しているかのような
身体になった。
(自分だけ寝ているか
らよ)
 本当に今日の私は、
イライラしていた。


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