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  1
 
 初めて間近で見た
“それ”は、想像して
いたものよりもずっと、
グロテスクではなかっ
た。
 昔、何かで“それ”
を見たことがある。多
分、戯れに買ったレデ
ィコミにカラー写真が
載っていたのだと思う。
朱色の太々したボディ
の尖端にはコケシみた
いに人の顔が付いてい
た。商品説明として
『首がファジーに動き
回り、あなたを昇天へ
導きます』とあった。
今にもその細い目がニ
ヤリと笑いかけてきそ
うで、怖ろしかった。
顔のすぐ下には真珠の
ようなイボイボがたく
さん付いていて、それ
がまた気持ちがいいの
だというように宣伝さ
れていた。こんなもの
を入れる人がいるの、
と呆気にとられた。
 バイブレーター。
 本当にこれで、私は
天国を知ることができ
るのだろうか。
 怖々とその輝きを見
つめる。
「顔は……ないみたい」

「顔ですか。そういえ
ば顔がついてるのもあ
りますよね」
 ヒロシはにこっと笑
った。こんな際どいも
のを目の前にしている
のに、もはや何の緊張
もないかのように。
「店の人に聞いた話な
んですけど、日本だと
玩具、オモチャってこ
とで販売しているから、
顔をつけて人形っぽく
させなきゃいけないん
だそうですよ。だけど、
これはアメリカ製だか
ら、顔がなくてもOK
なんだとか」
 どういうわけか、日
本の法律ではバイブは
オモチャ扱いになって
しまっているのだとい
う。だから顔がついて
いたのね、と妙に感心
してしまう。でも、顔
があったからこそ、妙
にリアルで生々しかっ
た気もする。
 今、目の前にあるも
のは、確かにオシャレ
だった。青く半透明で、
ギザギザが規則的に付
いている。これが、私
の身体の中に入ってく
るのだろうか。なんだ
か、実感が湧かない。
触れたらヒヤリと冷た
そうだ。
「うちは、バイブは使
い回しは絶対しません
から、これは新品です。
安心してくださいね」
 大きな瞳のヒロシは、
バイブを単なるグッズ
として扱っている。私
はこの形状や使い道を
考えるだけで、
 逆性感というものの
存在を知って、ホーム
ページにアクセスし、
そして電話をかけて、
今、私は見ず知らずの
男の人と、シティホテ
ルの部屋で、ふたりき
りでいる。
 男と女が密室にいれ
ば“何か”が起きて当
たり前だ。セックスは
もちろんのこと、パソ
コンの出会い系サイト
で知り合った男に刺さ
れる……なんていう事
件が後を絶たない。
 だから、実は私は、
メモを残してきた。
 机の上に、わかるよ
うに。
『新宿、ニューミレニ
アムホテル』
 と。万が一、行方不
明になったら探しても
らう手がかりくらいに
はなるはずだから。も
しちゃんと帰れたら、
ビリビリにその紙を破
ってゴミ箱に捨てれば
いいのだから。
「すみません……それ
で、前金でお願いでき
ますか?」
 ヒロシが金額を説明
した。
「逆性感が一時間一万
円、お客様は二時間コ
ースなので、二万円で
す。それとバイブが一
万円なので、全部で三
万円になりますね」
 私は黙って財布を開
けた。
 グッチのロゴマーク
を、彼がじっと見つめ
ている。緊張して、お
札がうまく引き出せな
い。ヒロシは二十二歳
だと言った。ずっと年
下の彼に、これからマ
ッサージを受けるのか
と思うとドキドキする。
筋張った腕が、とても
眩しい。
 気恥ずかしくなって、
窓の外を見た。フーゾ
クに通う男の人という
のは、いつもこんな気
持ちなのだろうか。女
の子があれこれ説明し
たりしているのを、所
在なく眺めているしか
ないのだろうか。相手
は初対面の若い子だ。
どんな会話をしたらい
いのかも全然わからな
いし、気ばかりが焦っ
てしまう。たった今知
り合ったばかりだとい
うのに、きっともう何
分もたたないうちに、
お互いに服を脱いで、
触れ合うことになる。

 普通の恋愛だったら、
話をして、それから手
をつなぎ、次はキス…
…というように、少し
ずつ接近していくもの
なのに。
「それじゃあ始めまし
ょうか」
 とヒロシはあっさり
と言う。こんなに簡単
でいいのだろうかと怖
くなるくらいに、あっ
さりと。
 外は、ものすごく明
るい。だからなおさら
落ち着かない。
 二十一階の窓から、
新宿の街が見える。 
 オフィス街が、日光
で真っ白く輝いている。
まだ二時なのだ。太陽
はまだまだ高い。
 慌てて私は、分厚い
カーテンを引く。遮光
素材なのだろう、一気
に部屋は暗くなった。
 真下には、お昼に行
った帰りなのだろうか、
何人もの人がのんびり
と道を過ぎていくのが
見える。
 健康的な人達が、働
いたり、笑いさざめい
たりして社会活動をし
ている時間。それなの
に私は薄暗いシティホ
テルの中にいる。デイ
ユースプランを申し込
んでいた。午後五時ま
で、一万二千円でこの
部屋を、借りている。
 ただひたすら、自分
が気持ちよく、なるた
めに。
「お昼にこんなことを
する人って、結構いる
の?」
 それが一番気になる
ところだった。自分だ
けがいやらしいのでは
ないか、とずっと、気
に病んでいた。ぐい、
とテーブルの上に置き
っぱなしにしていたコ
ップのビールを呷る。
飲まなくては、とても
やっていられない。
 昼じゃなくては、な
らなかったのだ。
 夫が留守の間に、事
を済ませたかったのだ。
他の男の匂いを消すた
めには、シャワーを浴
びて、身を清めて夫を
迎え入れたい。そのた
めには、やはり午後一
時とか二時とか、早め
の時間に男を呼ぶしか、
仕方がなかったのだ。
 ヒロシは、目がギロ
ギロとしていた。だか
ら、心のずっと深いと
ころまで見抜かれてい
るんじゃないか、とド
キドキしてしまう。
「いっぱいいますよ。
昼間って、結構忙しい
んですよ」
 大きく頷いている。
私を安心させようとし
ているだけじゃない。
本当に、いっぱいいる、
という。
「やっぱり主婦の人は、
昼間じゃないと、暇が
ないですからね。結構
毎日のように指名が入
りますよ」
「何歳くらいの人が多
いの?」
 私と同じ“冒険”を
している仲間のことを、
もっと知りたかった。
「いろいろですよ」
 ヒロシは目を宙に向
けて、思い出そうとし
ている。彼の頬が少し
引き締まる。腕組みを
している。長い指をじ
っと私は見た。この指
に、今から、弄られる。
私の身体は、どんな風
に反応するだろうか。

「下は二十歳そこそこ
の若い奥さんもいまし
たよ。トラックの運転
手をしているご主人が
留守で淋しいから相手
をしてほしい、って言
ってきたこともありま
すし、上は四十代とか
……、僕はお相手した
ことはないですけど、
五十代のお客さんもい
るみたいですよ」
「へえ」
 ドキドキしながら聞
き返す。
「まあ、いわゆるセッ
クスレスが、多いです
よ」
 その単語が出た途端、
身体がびくん、となる。
 私も、そうだから。
 でも、悟られるのは
恥ずかしかったから、
俯いて聞こえなかった
フリをした。そしてま
たビールを呷る。
 夫とはもう、何ヶ月
もしていない。
 結婚して三年目。い
よいよお互いに、飽き
てきてしまったのかも
しれない。
 このまま終わってし
まうことが、私はとて
もとても、怖かった。
 セックスが好きだと
かインランだとか、そ
ういうわけではない。
 私は、知らないのだ。
“イッてしまう”
 ことが、今までに一
度もなかったのだ。





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それを買う
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