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  1

 圭介は、遅れてやっ
てきた。
 彼が遅れないことの
ほうが珍しくなってし
まっていた。それはそ
のまま、私への気持ち
の醒めを意味している
ようで、つらいことだ
った。
 彼の代わりなんて、
いくらでもいる。
 そう思っていたはず
なのに。
 圭介からの連絡がど
んどん減ってきている
現実を受け入れるのが
怖い。私がいらない女
になってしまうのが怖
い。だんだん、彼への
お金を用意することが
難しくなってきていた。
圭介は、金づる女の底
が尽きかけていること
を敏感に察知し、ター
ゲットを他に移し始め
ているのかもしれない。

 街は小雨で、少し目
の前が曇って見える。
圭介は青白い、いつも
のように今ひとつ生気
のない顔で、車のドア
に近づき、当たり前の
ように開けて、乗り込
んでくる。吸ってきた
タバコを道にぽいと落
とした。相変わらず、
マナーも何もなってい
ない。
 圭介は、二十三歳。

 大卒だというけれど、
本当かどうかはわから
ない。確かにいろいろ
と物識りだし、頭は悪
くないけれど、でも、
彼の言っていることは、
いつもどこかに嘘が混
じるので、頭から信じ
込むことができない。

「ごめんごめん。起き
たらお昼過ぎてた」
 安っぽいビニール傘
をさした彼が、現れた。
私は今日会うことをす
ごく楽しみにしている
のに。あなたはそうじ
ゃないんでしょ。面倒
くさくて、どうでもい
いんでしょ。そう突っ
込みたかったけれど、
言葉を飲み込む。
 私はまだ、彼の家を
知らない。
 この半年で、彼は二
度も引越をした。北千
住から品川へ、そして
品川から横浜市へ。そ
のたびに私は駅前ロー
タリーまで車で乗りつ
け、彼を拾う。
 私は、彼の部屋に、
一度も行ったことがな
い。なぜなら、彼は女
と住んでいるからだ。
大学生の時から、彼は
誰かの部屋に厄介にな
る生活をしているのだ
という。
 住所不定、無職。
 それが彼だった。時
間だけはたくさんある。
「ねえ、見てみて」
 圭介が財布を開いて、
中を覗かせた。
 ヴィトンの長い札入
れの中は、空っぽで、
銀行のキャッシュカー
ドすら入ってはいない。
「昨日、三宅島の人達
が募金していたから、
全部あげちゃった」
「キャッシュカードは?
」
「女に取られちゃった。
遊んでばかりいないで、
ちゃんと働けって。あ
いつ、出勤前に一日に
千円、食費をくれるだ
けなんだよ」
「今日ももらったの?
 お財布に千円札入っ
てないみたいだけど」

「あ……」
 圭介はなんとも思わ
ないような顔で、
「ここ来る前にちょっ
とゲーセンに寄って、
ルーレットで全部スッ
ちゃったよ」
 と答えた。起きてす
ぐ慌てて飛んで来たん
じゃなかったの、と責
めたくなる気持ちをぐ
っと堪える。圭介は本
当に自分中心に、生き
ている男なのだ。
 今度の同棲相手は普
通のOLなのだという。
結婚しよう、と迫られ
ている、と、圭介は得
意そうに話した。
「すっごく、美人なん
だよ。昔、銀座でホス
テスのバイトしてたこ
とあるんだって。ほん
と美人だから、友達に
なれたら自慢だなって
思って声をかけただけ
なんだ。まさか同棲で
きるとは思ってなかっ
た」
 家も金持ちらしいん
だよ。横浜でひとり暮
らししたいって言った
ら、いきなりオートロ
ックのマンションの部
屋買ってくれたんだっ
て、と圭介は続ける。
ほら、そこの鍵、と首
に下げた紐を見せてく
れた。すごいんだよ、
鍵をセンサーに翳すだ
けでドアが開くんだ、
最新式だよ、と、まる
で自分の持ち物のよう
に威張る。黒くて細い
革ひもに通された銀色
のキーを横目で見なが
ら、
「まるで首に鈴をつけ
られた飼い猫みたい」
 イヤミを言うと、少
しムッとした顔で、鍵
をポケットにしまい込
んだ。
 圭介は、女の所に長
居をしない。
 大体三ヶ月もすれば
お互いに飽きてきてケ
ンカになってしまうか
ら、泥沼になる前に次
の住まいを見つけるの
だという。
「十人くらいの女と同
棲したかな、もっとか
な……」
 今の女の話、昔の女
の話、私に会うたびに
色々な女の話をする。
妬かせたいからではな
い。他に話すことがな
いから。彼の今の仕事
は、女から金を引っ張
ること。女に貢がせる
こと。尽くさせること。
だから彼は、仕事の話
を私に語っているのだ。
そんな時、私は、仕事
の相棒にでもなって、
一緒に女から金を巻き
上げているかのような
気分になってしまう。

「美央さんは、ダンナ
いるから、同棲できな
いし。だけど、なんか、
会いたいから」
 そんなの嘘だとわか
っている。圭介と会う
たびにお金を渡すこと
は、もう、当然の儀式
となっている。
 ホテル代も、食事代
も、全部私もち。それ
なのにさらに圭介は、
毎回二万なり三万なり、
私から奪っていく。そ
して私と会う時は、い
つも財布の中味はほと
んどない。入っていて
も千円や二千円がせい
ぜいだ。自分からワザ
と中味を見せにくる。
いつも色々な理由で女
から金を巻き上げられ
ており、そして色々な
理由で圭介はお金を必
要としていた。
 今日はこんな感じだ
った。
「結婚を考えてるから
お金を貯めてって言わ
れてカード取り上げら
れてるんだ。だけど、
そろそろ新しい靴を買
わないと。爪先の方が
破れかけてて、雨が降
ると水が浸みて、冷た
いんだよ」
 彼の履いている靴は、
ナイキ。二万円近くす
るスニーカーだという。

 私はバカなのか、い
つも彼の話を聞いて、
可哀想にと思ってお金
を渡していた。何かの
足しになればいいと思
っていた。
 だけど半年も関わっ
ていると、手口が見え
てくる。財布にお金を
入れていないことも、
破れかけのスニーカー
を履いていることも。
全部とは言わないまで
も、半分くらいは、彼
の演技なのだろう。圭
介は決して高そうな格
好はしていない。それ
も、貧乏そうに見せか
けているだけなんじゃ
ないか、本当はどこか
に隠し口座があるんじ
ゃないか。時々小憎ら
しくなる。この間、デ
パートで口紅を買いた
くなったのに、圭介に
貢ぎすぎているせいで、
通帳の残りが乏しくて
ガマンしてしまった。
私は、私の口紅よりも、
彼のスニーカーのほう
が、大切なのだろうか。

 圭介には、私のよう
に、外で会ってセック
スをする女が何人もい
るに違いない。別に、
彼の携帯の着信履歴や
メール記録を見たわけ
ではない。だけど、彼
といる時、しばしば携
帯が着信ランプを点灯
させる。小さな背面ウ
ィンドウには、かけて
きた人の名前が出る。
そこにはレイコとかミ
ホとか、女の名前ばか
りが現れた。セックス
をしている二時間の間
に、サオリという女か
ら十回以上も着信があ
ったこともあった。そ
していつも圭介は電話
を無視する。そして、
つぶやく。
「俺、すぐに折りテル
しないような彼女、絶
対イヤだよ。携帯の電
源切るような女は最悪。
他の男とデートしてま
すって言ってるような
もんじゃん」
 俺の女ってみんな、
どっかトロいんだよ、
とも言った。
「“電源切れてた”と
か“映画観てた”とか
言い訳すると、すぐ信
じちゃうしさ。“俺、
電話嫌いなんだ。だか
らよっぽど急用でもな
い限りかけなおさない
よ”とあらかじめ言っ
てあるから、女の子達
も勝手に、マイペース
な男なんだろうと理解
してくれるし。ほんと
は女とヤッてるのにな
あ」
 圭介はやっぱベンツ
はいいなあ、と見回し
て頷いた。車の中が広
いし、いろいろ凝って
るなあ、欲しいなあ、
と。
 ベンツなんてとても
買ってあげられない。
一番安いCクラスでさ
え三百万円くらいはす
る。けれども圭介の目
は真剣だった。
「美央さん、このベン
ツ乗らなくなったら、
俺に譲ってよ」
 なぜ、あなたに?
 急に、背筋が冷たく
なった。圭介は、最終
的には私に車まで、放
出させようと、してい
るのだろうか。



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